食品の官能品質は、香り・味・色など複数の要素から構成されており、単一の分析技術だけでこれらを総合的に評価することは困難です。そこで注目されているのが、複数の分析技術を組み合わせ、得られたデータを統合する「データ融合(Data Fusion)」という手法です。
2026年10月、学術誌「Frontiers in Nutrition」に、中国の大学・研究機関による、野菜入りパンの特徴を多角的に評価した研究論文が発表されました。この研究には、Alpha MOSの3種類の分析装置が使用されています。
野菜の種類によって異なるパンの特徴
本研究では、カボチャ、葛(クズ)、赤ピーマン、セロリのジュースをそれぞれ加えたパンと、野菜ジュースを加えていない通常のパンを対象に、Alpha MOSのフラッシュGCノーズ「HERACLES NEO」、電子味覚システム「ASTREE」、ビジュアルアナライザー「IRIS」を用いた比較分析が行われ、野菜の種類によって異なる特徴が明らかになりました。
- カボチャ入りパン: 鮮やかな黄色が特徴的で、外観に明確な違いが見られました。
- 葛入りパン: 通常のパンと比較的似た色調を示す一方、うま味・苦味に関連する応答や、発酵に関連する揮発性成分のピーク応答が比較的高くなりました。
- 赤ピーマン入りパン: オレンジがかった黄色を示し、甘味に関連する応答が比較的高くなりました。
- セロリ入りパン: 緑色の特徴が見られ、塩味に関連する応答が比較的高いほか、植物由来の香りに関連する成分も検出されました。
香気成分の分析では、17種類の揮発性成分が暫定的に推定されました。特に葛入りパンではエタノールやイソアミルアルコールなど、セロリ入りパンではミルセンやβ-フェランドレンと推定される成分が特徴的でした。
このように、野菜を加えることで生じる変化は、外観だけでなく、味覚応答や揮発性成分にも現れることが示されました。
3種類の測定データを組み合わせた解析
今回の研究では、3種類の装置から得られた測定データにそれぞれ主成分分析(PCA)を適用し、累積寄与率が80%以上となる最小限の主成分を抽出したうえで、「特徴量レベルのデータ融合(Feature-level Data Fusion)」が実施されました。統合データのPCAでは、最初の3主成分で全体の分散の80.78%を説明でき、異なる分析技術から得られた情報を共通の解析空間で評価できることが示されました。
食品の品質評価や製品開発への応用に期待
食品の品質を評価する際、外観、味、香りのいずれか一つの指標だけでは、その食品が持つ特徴を十分に捉えられない場合があります。
今回の研究では、Alpha MOSの3機種による測定とデータ融合を組み合わせることで、食品の異なる特性を相互に補完しながら、多面的に評価できる可能性が示されました。
さらに、こうした機器分析データに人による官能評価データを組み合わせることで、食品の客観的な特性と実際の感覚との関係をより深く理解できる可能性があります。食品の品質評価や新製品開発における、さらなる応用が期待されます。
参考論文
Multidimensional characterization of vegetable breads using multisource intelligent sensory technologies and feature-level data fusion
Y. Jiang, H. Yang, C. Jian, Y. Lin, E. Hu, H. Zhang, Q. Shi, Y. Yi
Frontiers in Nutrition 2026, 13, 1970901
DOI: 10.3389/fnut.2026.1970901
