電子味覚システムと電子嗅覚システムは官能パネルの“代わり”になり得るか ― 36本の研究論文が示す現在地

食品や飲料の品質を評価するうえで、人の官能パネルは依然として欠かせない存在です。一方で、パネリストの主観性、感覚疲労、評価に要する時間とコストといった課題は、開発や品質管理の現場でしばしば壁となります。私たちアルファ・モス・ジャパンは、こうした課題を補完する手段として、電子味覚システム ASTREEフラッシュGCノーズ Heracles(旧電子嗅覚システム FOX)、そしてビジュアルアナライザー IRISをご提案してきました。

今回は、近年の電子味覚システム(E-tongue)と電子嗅覚システム(E-nose)の応用研究をまとめたレビュー論文(Cho & Moazzem, 2022)を参照しながら、これらの装置がどのように官能評価を補完し、時には人を上回るのか、その現在地を整理してみたいと思います。


学術論文283本― 「Alpha MOS」の存在感

このレビューでは、PubMedとGoogle Scholarで2019年以降に出版された5,840本の論文を出発点とし、キーワード「Alpha MOS」で絞り込んだ283本を中心に分析が行われています。

最終的に官能パネルとの相関や比較を行った原著論文36本が抽出され、そのほとんどでアルファ・モスのASTREEHeracles II / NEO、FOX2000 / FOX4000が使用されています。

電子センシングシステムによる官能評価補完研究のリファレンスとして、アルファ・モスの機器が広く採用されていることがうかがえます。

訓練パネルより7日早く“ワインの異変”を捉える

Paupら(2021年)は、赤ワイン(Merlot)に腐敗微生物を接種し、最大42日間にわたって品質変化を追跡した試験でASTREEと7名の訓練パネルによるFlash Profilingの結果を比較しました。

結果は明快で、ASTREEは保存21日目時点で異なる腐敗微生物に由来する欠陥を判別できたのに対し、訓練パネルが香りの欠陥を検出できたのは28日目以降でした。つまり、電子味覚システムは非揮発性成分の変化を捉えることで、人より約1週間早く異変を察知したわけです。ワイン業界における経済損失の抑制という観点からも、示唆に富む結果です。

味×におい×見た目 ― マルチセンシングの実力

Jiangら(2021年)は、熟成期間1〜3年の中華ハム(金華ハム)を対象に、3つのシステムを組み合わせた解析を実施。11名の訓練パネルによる定量的記述分析(QDA)法と照合した結果、計27の特徴量を用いた予測モデルは100%の分類精度で熟成期間を判別し、官能パネルが見出した7属性中5属性と統計的に整合する結果を示しました。

Trabelsiら(2021年)の研究では、フレーバーオリーブオイルを使ったアンチョビ加工において、アルファ・モスの3システムがそろって採用されています。20名の消費者パネルでは14日間の保存中に総合的な嗜好性に有意差が出なかったにもかかわらず、電子センシングシステム側は色・味の差異を明確に捉えており、機器分析が消費者調査の盲点を補完する好例となっています。

代替”ではなく“補完”、そして“先回り”

紹介した研究の多くは、電子味覚・嗅覚システムと官能パネルとの間に有意な相関を確認しています。同時に、両者が捉える情報は完全には一致せず、それぞれが異なる役割を担っていることも明らかになってきました。

私たちアルファ・モス・ジャパンは、ASTREE、Heracles、IRISといった機器分析の力と、人の感性によって支えられる官能評価を組み合わせることで、品質管理の自動化、開発リードタイムの短縮、そして消費者調査の精度向上をご支援しています。「人を完全に置き換える」ではなく、「人が気づくより前に変化を捉え、人の判断を裏付ける」――これこそが、私たちが電子センシングシステムで実現したい未来の姿です。


参考文献: Cho, S., & Moazzem, M.S. Recent Applications of Potentiometric Electronic Tongue and Electronic Nose in Sensory Evaluation. Preventive Nutrition and Food Science 27(4), 354–364 (2022). https://doi.org/10.3746/pnf.2022.27.4.354