私たちが普段何気なく口にしている食品や飲み物。その「味」や「好き嫌い」を測るために、企業や研究機関では様々な官能評価が行われています。特に、ワインのように繊細な香りや風味をもつ製品では、その評価方法が非常に重要です。
今回は、そんな官能評価の中でも“質問の順番”に着目した、ちょっと興味深い研究内容を紹介します。
「どれが好き?」と聞く前に、「どんな特徴がある?」と聞くべき?
この研究テーマは、「ワインの味や香りを評価する際に、“好み”を先に聞くべきか、それとも“特徴”を先に確認するべきか?」というものです。
一般的には、分析型と嗜好型の評価を一緒に行うことは推奨されていません。人間の認知バイアスにより、一方の評価が他方に影響する可能性があるためです。しかし、最近ではCATA(Check-All-That-Apply)法とヘドニックスコアを組み合わせた評価がトレンドです。
ここでは、ワインを飲んだ人に対して以下の2パターンの順番で質問を投げかけ、結果にどんな違いが出るかを比較しました:
パターンA:「どれくらい好きか?」→「どんな特徴があるか?」
パターンB:「どんな特徴があるか?」→「どれくらい好きか?」
ワインの特徴については、CATA法を用いて、「果実っぽい」「甘みが強い」などの複数の特徴から、当てはまるものをすべて選んでもらうものです。
結果:「特徴」→「好み」の順が、より詳細で信頼性の高いデータに
実験は、赤・ロゼ・白と異なるタイプのワイン、異なる季節、異なる消費者パネルを使って4回実施されました。その結果、次のような傾向が明らかになりました。
- CATA(特徴)→ 好み の順番で質問したパターンBの方が、
→ ワインの違いをより明確に浮かび上がらせることができた
→ 少人数でも信頼性の高い結果が得られた
→ 「どれが美味しいか」の判断も、統計的に明確な差が出やすかった
一方で、「好み」→「特徴」の順で質問したパターンAの場合、回答が“好みに引っ張られた”可能性があるとも言われています。つまり、先に「好きかどうか」を答えてしまうと、無意識のうちにその評価に沿って特徴を選んでしまうかもしれないのです。
なぜ順番で差が出るのか? 今後の研究に期待
この研究では、「なぜ順番が影響するのか?」という明確なメカニズムまでは解明されていません。しかし、今後の商品開発やマーケティング調査、あるいは消費者理解のために、このような“質問設計の工夫”が重要であることを示唆しています。
そして、消費者の声をより正確にとらえるための新しい視点を提供してくれました。ワインに限らず、食品全般の評価に応用できる可能性も広がっています。
「ただアンケートを取ればいい」という時代は終わりつつあります。どのような順序で、どんな問いを投げるか――それによって得られるデータの質や洞察は、大きく変わるのです。
出典:
Geffroy, O., Maza, E., Lytra, G., & Chervin, C. (2024). ‘Liking then CATA’ or ‘CATA then liking’? Impact of the hedonic question positioning on the wine sensory description and appreciation. OENO One, 58(3).

