―SensoStat社のユニークな感性評価研究をご紹介
日々の暮らしに溶け込んでいるシングルサーブのコーヒーメーカー。朝の目覚めの一杯、午後の休憩時間、夜のリラックスタイム……そのとき私たちは、コーヒーの味や香りだけでなく、「音」にも少なからず影響を受けているかもしれません。
今回は、当社のパートナーであるフランスのSensoStat社が行った、ちょっとユニークで興味深い研究をご紹介します。それは、「コーヒーメーカーの音が消費者にどう認識されるか」というテーマで、2つの異なる評価手法を使って探ったものです。
音の印象は、どうやって測る?
本研究では、4つの主要なシングルサーブのコーヒーメーカー(Nespresso、Senseo、Tassimo、Dolce-Gusto)から発せられる抽出時の音を、133名の消費者に聴いてもらいました。対象は18歳から74歳までの男女で、実生活に近いリアルな声を集めることを意識した構成になっています。
注目すべきは、その評価手法。用いられたのは以下の2つです。
自由記述法
「このコーヒーメーカーの音を記述してください」とお願いする形式。参加者が自由な言葉で印象を述べます。
言語連想法
「このコーヒーメーカーの音を3つの単語で記述してください」と指示し、短い語で直感的な印象を引き出す形式です。
FIZZを用いてこれらを2週間の間隔を空けて実施し、それぞれの手法の特性や違いを分析しました。
シンプルな言葉の力、深い記述の魅力
結果は非常に興味深いものでした。
まず両手法で得られた表現には重なる点が多く、共通して20の主要な用語が浮かび上がったことが確認されました。しかし、詳細に見ていくと違いがはっきりします。
言語連想法では、製品ごとの違いがはっきりと表れ、ポジティブ・ネガティブの印象が明確に分かれました。全体としてより効率的に重要な印象の違いを抽出でき、分析結果も分かりやすいというメリットがありました。
一方、自由記述法では、より多様で深い表現が集まりましたが、製品間の違いがややぼやける傾向に。追加の解釈軸や時間が必要な分、洞察は深いという特徴があります。
この違いは、「直感的な印象を短く答える」形式と「自分の言葉で自由に表現する」形式の応答スタイルの差によるものと考えられています。
本研究の面白さは、「音」というあまり注目されない感覚に光を当てただけでなく、感性評価手法そのものの有用性や使い分け方を示してくれた点にもあります。また、今回のアプローチを嗅覚や味覚といった他の感覚モダリティにも応用可能であるとし、今後の感性評価研究に広がりを持たせています。
参考論文:
Méline Vautrin, Eric Teillet, Daniel Ahmad, Christine Urbano, Arnaud Thomas
“Free comment versus word association test: Methodological insights for sensory analysis”, Food Quality and Preference, Volume 130, 2025, 105555